統合失調症とは
多くの方が10歳から20歳代に発病するといわれており、こころが成長する過程で人生の岐路に立つ時期にこの病気と向き合っていく困難が重なります。決して稀な病気ではなく1%程の人がこの病気を経験するといわれています。思考、知覚、感情をまとめていく能力が徐々に障害を受けることが特徴で、症状は陽性症状、陰性症状に大きくわけられます。陽性症状には幻聴、妄想、考えが混乱する思考障害があります。幻聴は悪口など本人にとって悪い内容が多く、妄想は誰かに狙われているなどの恐ろしいことを信じ込み、本人はとても怖い思いをします。陰性症状にはやる気が湧かず、引きこもって生活してしまうなど、本人は頑張りたいけど頑張れないという葛藤に悩みます。発病初期には陽性症状が主体となり、その後徐々に陰性症状へ移行していきます。
統合失調症の原因
家族歴があることから遺伝的な要因や、発症のきっかけには心理的なストレスが関与しているといわれています。直接的な原因は脳の神経細胞の情報伝達をつかさどるドパミンといわれる神経伝達物質が関係しているとされています。この物質が特に脳の中脳辺縁系といわれる部位で過剰になると、幻覚や妄想などの陽性症状がでるといわれています。
統合失調症になりやすい人
統合失調症の発症メカニズムは徐々に解明されつつあるものの、まだ明らかではありません。しかし、遺伝的、器質的、構造的な脳の問題や気質、ストレス要因などが発病の引き金になると考えられています。
統合失調症の種類
統合失調症は以下の3つのタイプに分類されます。
妄想型
30歳前後の成人期に発症することが多く、幻覚、妄想などのいわゆる陽性症状を主体とします。自閉傾向や感情の平板化などの陰性症状は目立ちません。妄想は他者から嫌がらせを受けるなどの被害妄想が多くみられます。経過とともに妄想は次第に発展して一つのまとまった妄想の体系を作ることが一般的です。
破瓜型(はか型)
聞きなれない言葉ですが破瓜とは思春期を意味します。思春期の10代から青年期の20代と、若い世代に発症することが多く、感情や意欲の鈍麻、自閉傾向などのいわゆる陰性症状が目立ち、幻覚や妄想などの陽性症状はないか、あっても発病初期にわずかにみられることが多いです。予後は良くないとされており、人格が解体したような平板な感情、支離滅裂な言動などの症状が現れます。
緊張型
破瓜型と同じ20歳前後に急に発病します。運動関連の異常が突然現れ、極度の興奮状態と昏迷状態を繰り返すのが特徴です。症状としては、突然の多動、奇声、じっと動かなくなるなどがあります。その他、身体は過緊張状態になり、奇妙な姿勢で固まるといった症状も現れます。一定期間治療を続けると症状は改善しやすいものの、再発する可能性も高い傾向があります。
統合失調症の症状
陽性症状
- 自分の考えたことが声になって聞こえる
- 自分の考えが周囲に知れわたる
- 自分の考えが抜き取られて空っぽになる
感じがする - その場に居ないはずの人の声が聞こえる
- 自分のことについて話し合う声が聞こえる
- 誰かに操られている感じがする
- 誰かに監視されている感じがする
(部屋に誰もいないのに誰かの気配を感じる) - 誰かに狙われている感じがする
- 誰かがずっと自分の悪口を言っている気がする
- テレビやネットが自分にメッセージを
送っているように感じる - あり得ないことを信じ込むようになる
- 考えがまとまらない
- 変わった行動をする
など
陰性症状
- なんとなく意欲が湧かない、ぼんやりする
- やろうと思っていても行動(実行)できない
- 重大なことにも動じなくなった
- 物事への関心がなくなった
- 考えがまとまらないようになった
- 食事も面倒に感じるようになり食欲もわかない
- 喜怒哀楽の表現が乏しい
(感情が薄くなった気がする) - 社会的な交流を持たない
(人と会っても何を話したら良いかわからない) - 自宅に引き籠るようになった
- 友達や家族と話すのが面倒に感じる
など
統合失調症の治療
お薬での治療、休息、心身のリハビリテーションが治療の柱となります。この中でも特に発病初期から中期ではお薬での治療が最も大切です。統合失調症では脳内の神経細胞間の情報伝達をつかさどるドパミンの過剰な放出があるとされ、お薬での治療でこの過剰な働きを抑えることができるからです。お薬での治療には前向きになれないと考えている方もいらっしゃるかと思いますが、診察ではご本人のその気持ちを受け入れつつ、丁寧にご説明を行い効果と副作用を慎重に判断して少しずつ調整をしていきます。ご本人が効果を実感することができて、悩んでいた症状が緩和されればお薬での治療を継続できる方がほとんどです。症状が安定していてもお薬をやめてしまうと症状が再燃することがありますので、維持療法としてもお薬での治療は統合失調症の治療のかなめとなります。
発病初期には幻聴や妄想が現実のものと区別がつかないことで、病気であるという認識ができないことがあります。ご本人は苦悩を抱えていますが、どこに相談すればよいか分からず精神科・心療内科への受診に繋がらないこともあるため、そのような場合にはご家族と一緒の受診をお勧めします。まずは病気についての説明をご本人ご家族に丁寧に説明し、悩んでいる症状は治療で改善することをアドバイスさせていただきます。
統合失調症の人にしては
いけないこと
ご本人だけでなくご家族もご本人を支えていく上で多くの困難をともなうことがあります。その中で最も大切なのはご家族がこの病気についての正しい知識を持ち、本人の言動は病状であることを認識してサポートしていくことです。統合失調症の患者さまは、周囲の方々の接し方に敏感です。特にご家族のご本人に対する感情の表し方が、病気の再発に大きな影響を与えるとされています。
この感情の表し方は「感情表出」と呼ばれ、英語ではExpressed Emotion(EE)と略されます。患者さまに強い感情表出が向けられることを「高EE」といい、再発リスクが高い対人関係とみなされます。高EEには大きく2つあります。ひとつはご本人に対して批判的、敵意のある感情を表すこと、もうひとつはご家族が感情をコントロールできなくなりご本人をかばいすぎてしまう態度を表すことです。
具体的には統合失調症の患者さまに対して、以下のような接し方は避けることが望ましいとされています。
- 批判的、敵意のある感情表出:「何もしないでごろごろしている」「いい年して仕事もしない」、「あんたが居なくなればいい」など、患者さまに対する不満や文句、敵対的な感情をぶつけることです。健康な方なら気にしないこともご本人にとっては大きなストレスになることがあります。
- 情緒的に巻き込まれた感情表出:「この子は私がいないとダメ」「この子の気持ちは私しかわからない」など過保護や過干渉な態度をとったり、泣きながら本人をかばおうとしたりするような冷静さを失うような言動。
過度な介入は患者さまにも負担になることがあるため程よい距離を保ちましょう。
ご家族の気持ちの安定と冷静な対応が患者さまにも良い影響を与えます。