うつ病の方の行動の特徴は?
こころの病気はうつ病に限らず外面に現れにくいため、健康に見えてもご本人は症状に悩まされていることがあります。人の気分や思考、感情や情緒などの心理状態は本人とコミュニケーションを取らなければ、他者が知ることは難しいとされますが、表情や身振りなどの外見上からあらわになることがあります。これを心理学では表出と呼びます。人は無意識のうちに周囲の方々の表出から心理状態を読み取り社会生活を円滑に送ることの一助としています。
うつ病では、笑顔が減り、虚ろな表情になることがあります。理由なく涙がでたり、普段は冷静であった方がイライラすることが増えたりと感情のコントロールが難しくなります。興味のあった話にも耳を傾けなくなり、ぼーっとしているようにも見えるでしょう。外食などの楽しいことに誘っても以前と違って断るようになり、食事量が減り、明らかに痩せることもあります。また、無断欠勤や遅刻が増え、業務上のミスが多くなるなど意欲や集中力の低下などからうつ病の人に特徴的な行動の変化がみられることがあります。
会社の同僚やご家族にうつ病の人が取る行動の特徴が見られた場合には、速やかに精神科・心療内科の受診を勧めてください。もしご本人が受診に前向きでない場合にはうつ病という言葉を使わずに「疲れているようだから心配」「無理をしないで」というお声がけが本人の受診への一歩を踏み出すきっかけになることもあります。
うつ病の方が使う言葉
「もうだめだ」「大変なことになった」などの否定的な表現
うつ病では自尊心の低下やご自身が無価値であるという否定的な思考が強くなるため、後ろ向きであったりネガティブであったりする言語表現や言葉使いが増えてきます。たとえば、「もうだめだ」「大変なことになった」などです。その他でうつ病の方やうつ病になりやすい方の言葉として考えられるものは以下の通りです。
「絶対に」
うつ病は真面目で責任感の強い方に発症しやすい傾向があります。「絶対に」という発言自体が実際に多くなくても、ご本人の中でこの言葉を大切にする傾向があるような完璧主義な性格や、失敗を許せない傾向などがある場合には、うつ病を発症しやすくなると考えられています。
「~ねばならない」「~べきだ」
うつ病の方は秩序を重んじ、他者からの評価を過度に気にする傾向があります。他人の意見を否定するのを不得手とし、頼まれるとノーといえない、規則やルールに従う傾向があり、「~ねばならない」「~べきだ」などのいわゆる、べき思考が強くなりがちです。周囲からの信頼が厚く、会社や組織から重宝されることが多い人材ですが、当の本人は知らない間にストレスを抱え込み、うつ病となることがあります。
「私は」「僕が」「自分としては」
うつ病の方は、生真面目で責任感が強く、秩序を重んじる傾向があります。会社や組織に献身的で、業務を遂行するにあたり、特に一人称を用いて自分自身に責任の所在があるということを必要以上に明確にする傾向があります。ご本人が担当している業務が失敗すると他人やご自身と関係のない事柄に責任を求めるのではなく、ご自身やご自身の役割に責任を求め、過度に自責的になることがあります。
うつ病の方が取りやすい行動
口数が極端に減る
うつ病は、脳のエネルギーがなくなり、意欲や思考力が低下する病気です。
思考がまとまらなくなったり、ご自身の考えをうまく言葉にできなくなったりします。また人と会話をする意欲や気力がなくなり、以前とくらべて口数が極端に減ることがあります。徐々に人との関りを避けるようになっていきます。
日常生活での意欲がなくなる
テレビや新聞の閲覧、趣味やクラブ活動など、今まで楽しんでいたことに対する意欲や興味がなくなります。倦怠感も重なり意欲がなくなったことにより自宅のベッドから起き上がれなくなる方もいらっしゃいます。
人との関わりを避ける
抑うつ気分、興味や喜びの消失、意欲の低下などから、同僚や同級生、昔からの友人をはじめ家族など身近な方々との接触も次第に避けるようになってしまいます。
身だしなみに無頓着になる
うつ病になると、意欲や気力の減退から毎日の生活で当たり前のようにしていたことさえも億劫に感じてしまい、歯磨きや入浴さえ困難になることがあります。着替えや身だしなみに気を遣うことも面倒に感じ、清潔感を保てなくなります。このような行動はうつ病だけでなく、統合失調症や躁うつ病(双極性障害)のうつ状態にもみられます。
体重(体型)が急激に変わる
うつ病の方に特徴的な行動として、食生活の変化が挙げられます。
食欲がなくなり体重が減る方が多くいらっしゃいますが、非定型うつ病と呼ばれるうつ病では、逆に食べ過ぎてしまい体重が増えます。
喜怒哀楽など、情緒が不安定になる
うつ病になると感情をコントロールすることが難しくなります。落ち込んだり、焦ったり、急に苛立ったりするなど感情や情緒が不安定になることがあります。気分の浮き沈みが激しい場合は、躁うつ病(双極性障害)の可能性もあります。
飲酒、ギャンブル、恋愛などへの依存
うつ病や躁うつ病(双極性障害)などのこころの病気は、アルコールや薬物、ギャンブルへの依存と関係することがあるといわれており、依存症のきっかけになることがあります。特にアルコール依存症とうつ病の併発は、自殺企図や自傷行為などの深刻な問題に発展する可能性があります。
また、パーソナリティ障害などでアルコール、ギャンブル、恋愛などへ依存傾向のある方がうつ病を併発することもあります。賭け事や恋愛は感情が激しく動きやすく、依存になると精神的な負荷も大きいため、抑うつ状態には注意が必要です。
外出できない
うつ病になると、外出が困難になるケースが多くあります。
これは、やる気が低下して何もしたくなくなり、人との関りを避けたいと思ってしまうことが原因です。いわゆる「引きこもり」になり、職場や学校に行けなくなることもあります。
何をしても楽しくないため、趣味や気分転換もままならないかもしれません。
家から出られない場合は、無理をせずに治療と休養に専念しましょう。無理に頑張ろうとすると症状が悪化してしまうこともあるため、まずは信頼できる医療機関に相談し、適切な治療を始めることが大切です。
仕事中に見られる
うつ病の行動パターン
仕事のミスが増える、作業効率が下がる
これまで手際よく業務をこなしていたのに、集中力の低下から思いがけないようなミスを連発したり、意欲の低下から作業効率が急激に下がったりすることがあります。
遅刻や欠勤が増える、出社拒否
遅刻や欠勤が増え、時には無断欠勤も目立つようになります。特に、これまでそのような問題を抱えたことのない方は注意が必要です。
病状が悪化すると気持ちや体がついていかなくなり、出勤ができなくなることもあります。
労働意欲の低下
これまでは勤勉で仕事に対して熱心に働いてきた方でも、やる気がでず仕事に対する意欲が急速に低下することがあります。
うつ病かも?と思ったら…
まずは休養を取る
うつ病かもしれないと感じたら、まずは勇気を出して休養に専念してください。
うつ病になると、やる気が出なくなります。頭では「頑張って仕事に行かなければ」と考えても、何もしたくない気持ちが勝ってしまうことがあります。
1日休んでも回復しない場合は、有給休暇、傷病休暇、失業保険を利用して長期の休養をとりましょう。
当院では医師が必要と判断すれば、即日に休職の診断書を発行しますので、初診日の当日から医師の指示で休職として休養を取り入れることができます。
心療内科や精神科への受診
うつ病かもしれないと思ったら、早めに信頼できる医療機関に相談しましょう。当院はうつ病の治療について豊富な経験のある精神科専門医が診療を担当します。お悩みの方はお気軽にご相談ください。
周囲にうつ病かも?
と思う方がいる場合
話を否定せずに聞く(傾聴)
いつもと様子が違うと感じたら、まずは否定をせずに話を聞いてみましょう。
話を聞く時は、相手の立場を尊重し、共感をもって耳を傾けましょう。決して批判したり否定したりせず、興味を持って話を理解しようとする姿勢を意識してください。
共感しながら相手の話を聞き、理解しようとすることを「傾聴」といい、実際のカウンセリングでも効果的な手法として用いられています。
相手があまり話したくない状態であれば、無理して聞く必要はありません。その場合は、「いつでも聞くよ」という態度を伝え、負担にならない範囲でそっと見守りましょう。
安心して過ごせる自宅環境を整え、見守る
ご家族にうつ病の方がいらっしゃる場合は、ご自宅を「安心して休める環境」に整えましょう。
否定的な発言や後ろ向きな態度が目立ち、ご本人がご家族の関りを求めない様子があっても、注意深く耳を傾けたり、優しく声をかけたり、さりげない気遣いをしたりすることがご本人の安心に繋がります。
ご自宅が憩いの場になれば、うつ病の悪化を防ぎ、回復を促し、元の日常に戻りやすくなります。決して焦らずに温かい心で見守りながら、休める環境を作るようにしましょう。
公的な相談窓口へ連絡する
患者さまご自身で相談をするのは、敷居が高いと感じるかもしれません。そのような場合はご家族やパートナーが代わりに相談してみることも可能です。会社によっては、ご家族も相談できる「社外相談窓口」を設けているところもあります。ホームページなどで確認してみましょう。
医療機関への受診を勧める、付き添う
以前と明らかに違う状態が続く場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
受診を勧められる際は、「うつ病」や「こころの病気」などの言葉は使わず、「疲れているようだから心配」「無理をしないで」といった形で患者さまに伝えましょう。ご本人がどうしても受診に前向きでない場合には「病気ではないことを確認するために念のために受診してみよう」というお声がけも有効な場合もあります。また、初めて医療機関を受診する際には患者さまと一緒に医療機関に受診されるのも良いかもしれません。