解離性障害(転換性障害) DISSOCIATIVE DISORDERS

Dissociative disorders

解離性障害(転換性障害)とは

通常では繋がりのある意識、記憶、知覚、自己同一性などに係る機能が一時的に失われた状態を解離といいます。たとえば読書に没頭していて周囲の声が聞こえなくなったり、仕事でへとへとに疲れて電車で帰宅する時にふと気づいたらいつも降りる駅の直前だったりと、軽いものであれば通常でも多くの方が経験しているといわれています。しかしながらこの症状により社会生活に支障をきたすと解離性障害と診断されます。解離が起こる原因について分かりやすくひとつ例を挙げると、本人にとって非常に大きな痛み刺激にさらされた時に、実際には痛みを感じることがなかったり、苦痛を受けた時の記憶そのものがなくなったりすることがあります。これは苦痛によってこころを保つことができなくなることを防ぐため、痛みの知覚やその時の記憶を自我から切り離すことを無意識のうちにしていると考えられています。解離性障害は解離性健忘、解離性遁走、解離性同一性障害(多重人格障害)、離人症性障害、解離性昏迷に分類されます。
解離性障害と同じ原因でも身体的に症状がでるものを転換性障害といいます。心理的な葛藤などの精神的な苦悩を体の症状に置き換えていることから転換という言葉が用いられるようになりました。代表的な体の症状は立つことや歩くことが難しくなったり、ひきつけを起こしたり、目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったりするなどが挙げられます。もちろん脳神経、運動器、感覚器の異常がないことを症状とその経過から判断したり、検査で明確にしたりする必要があります。
もともと解離性障害と転換性障害は同じ疾患に分類されていましたが、転換性障害にも解離症状がみられる場合が多いことやこれらの精神的な原因や病気の成り立ちは同じであることからこれらを一つにまとめて分類することが妥当であるとも言われています。

解離性健忘

本人にとって抱えることができない程の衝撃的な出来事が起こった時に、その一時的な出来事の記憶を失ってしまうことです。ほとんどが数日から一週間ほどで記憶を取り戻すことができますが、時には長期にわたり健忘が続くことがあります。

解離性遁走

突然、住んでいた場所から離れて、遁走中は本人もその生活の変化に気付くことなく、場合によっては離れた場所で新たな生活を始めることもあります。立ち振る舞いや行動は通常ほぼ正常であるため周囲もそれに気づかないことがあります。遁走とは聞きなれない言葉ですが、逃げることを意味します。この状態が終わると、本人は新しい状況に置かれていることに気付きます。遁走中に体験したことは後から思い出せないことが一般的で、本人は遁走中の記憶が抜け落ちていること自体は認識しています。

解離性同一性障害(多重人格障害)

かつて多重人格障害といわれていたもので、本人の中に全く異なる別の人格が複数存在している状態です。特に自我が形成される幼少期に本人の適応能力をはるかに超えた激しい苦痛やトラウマを長い期間にわたって受け続けたり、何度も衝撃的な体験をし続けたりすると、その度に解離が起こり、結果としてその苦痛を引き受ける別の自我ができあがります。もとの自我にはその体験が引き継がれずそれぞれが独立した記憶を持つようになることが発症の原因とされています。

離人症性障害

意識と感覚が分離することがあります。たとえば、ご本人が話していることを他人が話しているように聞こえたり、自分自身の分身が話しているのを見ているように感じたりすることがあります。

解離性昏迷

昏迷とは意識があるにも関わらず、光や音などの外部からの刺激に反応がない状態です。こころと体の司令塔である脳の働きが悪くなりご本人の意思で動いたり話したりすることができなくなります。うつ病や統合失調症でも昏迷となることがありますが、解離性昏迷の場合には症状が突然に起こることが特徴のひとつです。

解離性障害(転換性障害)の原因

解離性障害(転換性障害)の原因同じような環境にいたり同じような体験をしたりしても解離(転換)を起こさない方もいることから、本人の素質も関係しているといわれています。解離性障害ではこれにトラウマなどのストレスにさらされると症状がでてきます。生まれ育った環境でつらい体験を繰り返し経験することで日常的にストレスから自我を切り離すようになったり、災害や事故などで一時的に強い心理的なストレスを受けたりすることで自己の防衛機構がはたらくことで解離を引き起こすとされています。転換性障害は本人が意識していることもあれば無意識の中で起こっていることもあるこころの葛藤が原因とされています。上手く処理できなくなったこころの葛藤や受け止めきれないストレスを身体的な症状に置き換えているといわれています。

解離障害(転換性障害)の症状

  • 自分が自分じゃないような感覚がする
  • 自分の体が自分じゃないように感じる
  • 自分がどこにいるのか、何をしているのか分からなくなる
  • 人と話しているのに、まるで他人事のような感じがする
  • 記憶が抜ける(何も覚えていない時間がある)
  • 何か嫌なことがあると頭が真っ白になる
  • 情緒が不安定である
  • 不安がある
  • 葛藤を抱えている
  • 気づいたら知らない場所に居ることがある
  • 過去の出来事を思い出せない
    (記憶が抜け落ちる)
  • 人格が入れ替わる
    (別人のような言動になる時がある)
  • 立てない
  • 急に力が抜ける
  • 体が後ろ向きに反り返る
  • ひきつけをおこす
  • 無意識に手足が動いてしまう
  • 突然耳が聞こえなくなる
  • 突然目が見えなくなる

など

解離性障害(転換性障害)の治療

解離症状(転換症状)は自己の防衛機構の一つとして出現するため、特に治療初期には無理に原因となったトラウマ体験や心理的な苦痛、葛藤と向き合わせることはしないようにします。本人が解離(転換)を起こさなくても済むような安心と安全を確保できる環境を用意します。職場での出来事が発症の原因である場合にはご本人と相談のうえで診断書を発行してまずは休息を取っていただきます。発症の素因に生育歴での愛着に原因がある場合や本人のこころを保つ能力などが関連している場合には、それらを考慮しながら環境の調整を考えていきます。
またうつ病や不安障害、睡眠障害などの病状が併存している場合には、症状に応じて抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などのお薬の力を使って本人の気持ちを安定させる手法を用います。さらに本人との治療関係を作りつつ、根気よく精神療法を行うことにより解離症状の原因となったトラウマ体験や心理的な苦痛、葛藤を少しずつ受け入れたり、自然とかわす方法を身に着けたりするなどの心理療法を行います。

解離性障害(転換性障害)の
患者さまを支えられる方へ

患者さまは、ご本人の解離症状に気づいてないこともあります。遁走中に見知らぬ人に親しげに話しかけたり、片付けた記憶がないのにキッチンが綺麗に掃除されていたり、気づかないうちに数時間も経っていたりと気づいた時には混乱します。ご本人も混乱してしまい困っているにもかかわらず周りからはわざとらしいと言われたり、その行動に困惑されたりして、周囲からの信頼を失うこともあります。解離症状(転換症状)は、必ずしもその場で起こっている明確なストレスが引き金になるわけではなく、ご本人でも認識していないようなこころの底の葛藤や過去のトラウマが症状を引き起こしていることもあります。処理できない感情を解離(転換)症状に置き換えているため、その症状の激しさに比べ本人は意外とけろっとしているように見えることがあり、これは満ち足りた無関心と表現されるほどです。これがしばしば周囲の困惑につながります。このような患者さまを支援する第一段階は、患者さまの解離症状の特徴を知り、理解することにあります。解離症状のために時間を認識するのが難しく約束をすっぽかしてしまったり、公共の場所での解離症状がでることを避けたりするために社会生活や友人との付き合いなどから退く傾向があります。ご家族や周囲の方たちはご本人に圧力をかけすぎないように配慮し、社会との関わりを失わないようにサポートする必要があります。また、解離症状からなかなか覚醒しない場合は、グラウンディング(grounding )と呼ばれる方法が有効な場合もあります。これは足を地面につけてその感覚を感じることで患者さまを現実に戻す方法です。たとえば、横になり手足をばたつかせている場合は転倒に注意しながら足の裏を床に着けるように立たせたり、これが難しい場合には手に氷を握らせたり、窓から明るい日差しを入れるなどでご本人の感覚を刺激することで、現実に戻すことが出来る場合があります。しかしながらご家族や周囲の方のサポートがあっても混乱が強く転換症状から行動が制御できない場合や、解離性昏迷が続いて体の動きが悪くなり食事や飲水ができなくなる場合には入院治療もひとつの選択肢となります。

WEBで予約 LINEで予約 pagetop
TOP