認知症とは
広く知られている症状はいわゆる「物忘れ」ですが、その他にも「理解力や判断力の低下」、「日付や場所の認識が難しくなる」、「計画を立てて実行することができなくなる」、「言葉が扱えなくなる」、「着替えるなどの日常の動作ができなくなる」など日常生活に必要な物事を認識する力に障害が出てくることでさまざまな症状が現れます。これら認知機能の低下が数年単位で徐々に進行し、これにより日常生活に影響がでてくると診断されます。診察ではその時点の症状だけでなく、認知機能の低下が徐々に進んでいることを特定していくことが非常に大切です。ご本人だけでの受診ではなく患者さまの日常生活の様子を把握しているご家族と共に受診されることをお勧めします。
理解力や判断力の低下、物忘れ、日付や場所の認識が難しくなる、計画を立てて実行することができなくなる、言葉が扱えなくなる、日常の動作ができなくなるなど認知機能の低下に伴う症状を認知症の中核症状といいます。進行度にもよりますが、これらの中核症状は認知症と診断されたすべての方にでてくる症状です。それ以外にも不眠、イライラ感、怒りっぽさ、幻覚妄想、興奮、攻撃性、夜間せん妄などの症状がみられることがあり、これを認知症の周辺症状といいます。夜間せん妄とは意識の低下、注意障害、感情障害、睡眠と覚醒のリズム障害などが動揺性のある中で出現する症状で、多くは夕方から夜にかけて発生します。認知症の中核症状はお薬での治療をしても進行を遅らせることしかできず徐々に進んでいきますが、周辺症状はお薬での治療や環境を整えることで改善するとされています。
認知症は主にアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症に分類されます。
軽度認知障害(MCI)
軽度認知障害(MCI)と呼ばれる状態は、日常生活に支障はないものの、記憶力などの認知機能がわずかに低下する認知症の前段階のことを指します。MCI患者さまの約40%が5年以内に認知症に進行すると推定されています。しかし、MCIの段階から適切な治療を開始することで、認知症への移行を遅らせたり、食い止めたりすることができるため、そのような病気に気づいたら早めに受診することをお勧めします。
認知症の原因と種類
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型は認知症の原因として最も一般的なタイプで、アミロイドβやリン酸化タウと呼ばれるタンパク質が長期間にわたって脳内に蓄積することで発症すると考えられています。症状としては、記憶障害(物忘れ)が最も多いのですが、失語(言葉が理解できない、物の名前などがわからない)、失認(視力や聴力は問題なくても、目で見た情報を形として把握できない、聞いた音を判断できないなど)、失行(手足の動きは問題なくても、以前できていた動作ができない)なども目立つことがあります。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなることで起こる認知症です。症状は脳血管障害の部位によって異なり、麻痺などの体の症状を伴うこともあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、αシヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積することで発症すると考えられています。物忘れなどの認知機能障害に動揺性があることに加え、鮮明な幻視(そこにないものが見える)、転びやすい、歩きにくいなどのパーキンソン症状、睡眠中に夢を見たり叫んだりするなどの症状を伴うこともあります。どの症状が最初に現れるかは人によって異なります。
前頭側頭型認知症
脳の前頭葉と側頭葉を中心に病気が進行し、同じ行動パターンを繰り返したり、社会的に不適切な行動をとったりするなどの行動変化がみられる行動障害型と、言語障害がみられる言語障害型があります。
認知症の症状
中核症状
- 周りに対する気遣いや配慮がなくなった
- なんとなくものぐさな感じがある
- 物忘れが多くなった
- 話したことを忘れて何度もたずねてくる
- 家族や仲良かった人の顔を見えても
名前が思い出せないことが増えた - 大切な日付を忘れるようになった
- 大切な物を仕舞った場所を忘れるようになった
- 何かやろうと思っていたのに、その事柄をするまえに忘れてしまう
- 約束をすっぽかすことが増えた
- 料理ができなくなった
(手順が分からなくなった) - 洗濯ができなくなった
- テレビのリモコンの操作ができなくなった
- トイレを失敗するようになった
- 迷子になるようになった
- レジで万札ばかり使う
(小銭の計算が出来なくなった) - 同じものばかり買ってくるようになった
など
周辺症状
- イライラしている
- 怒りっぽい
- 不安がある
- 理由もなく急に涙が出る(涙もろくなった)
- 不眠がある
(夜になると急に不安になって眠れなくなる) - 夜中になるとごそごそ活動している
- 妄想をいだくようになる
- 幻覚がある
(誰もいないのに誰かいるように感じる) - 誰かに盗まれるような気がして必要以上に
物を隠す(片づける)ようになる - 表情が急に険しくなる
- 外出したくなくなる
- 人と話すことが面倒になる
- 大声を出す
- 辻褄の合わない言動がある
- 1日中同じ場所を歩き回るようになる
- トイレがどこにあるか分からなくなり
失敗するようになった - 急に自分の家が分からなくなり
自宅に戻れなくなる
など
認知症の治療
認知症の中核症状はお薬による治療をしても進行を止めることや改善させることは難しく、長い年月を経て少しずつ進行していきます。しかしながら抗認知症薬を用いることで症状の進行を遅らせることができるといわれています。一方、認知症の周辺症状については症状にあわせて適切なお薬を使用したり心理的な繋がりを作るなどの環境調整を行ったりすることで改善が見込まれます。周辺症状に対するお薬としては漢方薬でイライラ感や不安感を改善させたり、睡眠薬で不眠や夜間せん妄を改善させたりすることができます。また気分安定薬を使うことで怒りっぽさや気分の波を改善させることができます。妄想や幻覚にもお薬を使うことができます。高齢者はお薬に対する副作用が敏感に出ることがあるため、安全に使えるお薬から少ない用量で治療を計画していくことが肝要です。
同時に生活習慣の見直しや本人と家族との関わり方などの環境調整について一緒に考えていきます。認知症では日常生活に影響がでてくるため、ヘルパーなどの介護サービスを用いて家族の介護負担を取り除いたり、デイサービス、デイケアなどの福祉サービスで心理的、社会的な繋がりを作ったりすることも大切です。
30代・40代でも認知症になる?
認知症は、高齢者に該当する65歳になる前に発症する場合もあります。これを若年性認知症といいます。高齢者の方々と異なり、原因としてはアルツハイマー型認知症が最も多く、次いで、脳血管性認知症それに続いて前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、交通事故の後遺症やアルコール性認知症などがあります。若年性認知症の場合は、他の病気が原因となっている可能性もあります。より専門的な検査と迅速な治療が必要な場合には当院では提携する医療機関に患者さまをご紹介しています。