パニック障害(広場恐怖症)とは
混雑した電車やライブ会場などの人ごみの中でなんだか息が苦しく感じてしまうというのはごく普通のことです。しかしながらパニック障害では突然理由もなく激しい不安に襲われて、呼吸が苦しくなる、心臓がドキドキする、めまいがしてふらふらするという状態となり、死んでしまうのではないかという恐怖を覚えることもあります。場合によっては激しい恐怖感と体の症状により救急車で内科を受診する方もいるほどです。数分から長くても1時間以内に症状は消失するため、医師の診察を受けるころには治まっています。このような突然の発作的な不安や体の反応はパニック発作と呼ばれています。「あの発作がまた起こったらどうしよう」と予期不安を感じることがあり、これにより不安になる状況を回避することがあります。これらにより、いつものように電車を利用できず通勤に支障をきたしてしまうなど日常生活に影響がでている状態をパニック障害といいます。
パニック障害(広場恐怖症)と
間違われがちな病気
パニック障害に似た症状がある病気には、うつ病、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、他の不安障害(全般性不安障害、社交不安障害)などがあります。
パニック障害(広場恐怖症)の原因
不安を引き起こす働きのある脳の扁桃体という部分とその周辺の機能異常や、自律神経の過剰な活性化があるとされています。しかしながらそれだけでは説明がつかないこともあり、はっきりとした原因はまだわかっていません。不安を感じやすいもともとの性格や素因、家族歴があることから遺伝的な要因、ストレスによる自律神経の不調、疲労の蓄積などが関連しているといわれています。
なぜ電車でパニックを起こしやすい?
混雑した電車内は、人々の体温や湿度によって空気がこもりやすく、人と人との距離が近いため、息苦しくなりがちです。中でも背の低い方は、背の高い方々に囲まれると圧迫感を感じやすくなります。また、満員電車では息苦しさを感じても、すぐにその場を離れることが難しく、動悸や発汗が起こり恐怖を感じることがあります。
パニック障害(広場恐怖症)は
何人に1人?
生涯有病率は一般人口の1~2%で、約100人に1人の割合で発症します。特に女性や、10代後半~30代前半の方に多くみられます。遺伝因子と環境因子の相互作用によって発症するとされており、社会の複雑化やストレスの増加により患者数が増加傾向にあります。
パニック障害(広場恐怖症)に
なりやすい人の特徴
以下のような性格的特徴や傾向を持つ方は、それ以外の方と比較してパニック障害を発症しやすいと考えられています。
完璧主義、真面目
仕事や勉強はもちろん、多くの方々が手を抜きそうなことでも一生懸命に取り組む方は、どうしてもご本人の許容量を超えてしまいがちです。ご本人を追い込みすぎることが多く、物事を完璧にこなせないと過剰に気にしてしまい、それが大きなストレスとなる場合があります。
感受性が高い
感受性が高い方は、楽しいことや嬉しいことに共感し美しい景色に人一倍深い感動を覚えますが、ご本人や他人の痛みや悲しみにも敏感です。ネガティブなことが続くと気分が落ち込む時間が長くなり、次第にストレスが蓄積していくと考えられています。
周囲が気になる
(過剰に周囲を気にする)
周囲に気を配ることは、円滑な社会生活を送る上で重要なことです。
しかし、これが過剰になると、心配を抱え込んだり、先のことまで考えすぎて不安になったり、他人の目を過剰に気にして神経質になるなど、ストレスの大きい状況に陥ることがあります。
こだわりが強い
こだわりが強い方は、得意なことや好きなことにはやりがいを感じますが、嫌いなことや苦手なことに直面すると不安を感じることが多いです。また、うまくやり遂げることができないと、ひどく落ち込んだり自信を失ったりして、大きなストレスに繋がることがあります。
過労・睡眠不足
仕事などで疲労困憊している方や睡眠不足の方は、そうでない方に比べてパニック発作を起こしやすくなります。
疲労物質として知られる乳酸は、パニック障害の最も一般的な原因のひとつです。
うつ病などの既往歴
過去にうつ病を患ったことがある方は、そうでない方に比べてパニック障害を発症する可能性が高くなります。
パニック障害の症状
- 心臓がドキドキ、バクバクする
- 汗が出る(冷や汗が出る)
- 体が震える
- 息切れがする、息苦しい
- 窒息する感じがする
(上手く呼吸できない) - 胸が痛い、胸苦しさがある
- 胸が締め付けられている感じがする
- 吐き気、おなかの苦しさ
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じがする
- めまいがひどくて立っていられない
- 現実味がない、自分が自分でない感じがする
- 自分がコントロールできない、
変になるかもしれないことへの恐怖 - 死ぬことへの恐怖
- 感覚麻痺(しびれ)、うずき
- 冷たい感覚、あるいは熱い感覚がする
- 頭がぼーっとして何も考えられない
パニック発作
突然の不安、動悸、息苦しさ、吐き気、めまいなどの症状が起こります。
予期不安
発作がおさまった後も、またパニック発作が起きたらどうしようという強い不安に悩まされます。
広場恐怖
予期不安のために、パニック発作が起こった、または起こりそうな場所や空間に行けなくなったり、いられなくなったりすることがあります。
場合によっては、電車に乗れない、会社に行けない、学校に行けない、外出そのものが難しくなることもあります。
パニック障害の治療
お薬の治療、行動療法、生活習慣の改善を組み合わせて行います。
お薬の治療
お薬は漢方薬、抗不安薬、抗うつ薬に代表されるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などを使用します。漢方薬や抗不安薬で生じた不安やパニック発作を直接治療し、SSRIやSNRIでそもそも不安やパニック発作が出ないように抑制します。他の不安障害の治療と同様に抗うつ薬を使用するのは、不安の発生には脳の扁桃体といわれる部位とその周辺の過剰な活性化が原因といわれており、SSRIやSNRIと呼ばれる抗うつ薬にはこれを抑制する働きがあるからです。
行動療法
行動療法ではまずはパニック発作が起こった時のご本人の対応について、パニック発作の自然経過を理解することや慌てずに呼吸を整える方法を習得することで、上手くパニック発作をやり過ごすことを身につけてもらいます。また予期不安を抑えて回避行動をしないようにするためにはどのようにすればよいか考えていきます。不安になる状況を避けてしまうとその時はいったん安心しますが、次に同じ状況にあうと不安が更に大きなものになるといわれています。この悪循環を断ち切るために無理のない範囲で少しずつ不安に慣れていくように練習していきます。
生活習慣の改善
生活習慣の改善としては、リラックスして日々を過ごすようにすることはもちろんですが、嗜好品としてコーヒーや紅茶に含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンはパニック発作を起こしやすくするため、これらをできるだけ控えることをアドバイスさせて頂きます。またお酒が覚めてきた時に自律神経が活性化されてパニック発作が起こりやすい状態になるため、ご本人と相談しつつ過度な飲酒も同様に控えていただきます。