心的外傷後ストレス障害
(PTSD)とは
心的外傷後ストレス障害は、日本では一般的にPTSDと呼ばれています。PTSDは、英語のPost Traumatic Stress Disorderの略称です。暴力や性的暴行、交通事故、犯罪、戦争、自然災害など、日常の許容範囲を超える強いストレスによって引き起こされ、急性ストレス障害と同様に心的外傷(トラウマ)として発症します。急性ストレス障害との違いは、ストレス反応が一時的ではなく、長期間継続することです。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)と
急性ストレス障害
強いストレスや恐ろしい体験にさらされた後に症状が現れ、4週間以内に治まる場合は急性ストレス障害と診断し、1ヶ月以上症状が続く場合はPTSDと診断するのが妥当とされています。PTSDの場合、発症はトラウマ体験の直後の場合もあれば、1ヶ月以上経ってから起こる場合もあります。症状は同じで、どちらも「心的外傷およびストレス関連障害」という同じカテゴリーに属する精神疾患です。
心的外傷後ストレス障害
(PTSD)の原因
強いストレスによる感情の大きな起伏が、ご自身の許容範囲を超えた場合に起こります。具体的には、地震や台風などの自然災害、虐待、性的暴行、ハラスメントなどが挙げられます。また、ご自身が被害に遭った場合だけでなく、被害を目撃した場合にも起こります。さらに、個人の素質、性別、遺伝的素因、生活環境も影響します。
心的外傷後ストレス障害
(PTSD)の症状
つらい記憶が突然フラッシュバックする
事件や事故のことを完全に忘れたと思っていても、トラウマ体験中に経験した感情が突然戻ってくることがあります。
記憶には恐怖だけでなく、痛み、怒り、悲しみ、無力感などのさまざまな感情が混ざり合っています。
何も動揺するような出来事が起こっていないのに、突然感情が不安定になったり、動揺したり、涙を流したり、怒ったりすることがあり、周囲の方には理解しにくいかもしれません。
事件や事故を鮮明に思い出し、それを再体験しているように感じることもあります。同じ出来事に関する悪夢を繰り返し見ることも、PTSDの一般的な症状です。
神経が常に緊張している
つらい記憶が思い起こされなくても、緊張状態が続き、常にイライラし、些細なことですぐに驚き、周囲を極度に警戒し、よく眠れないことがあるなど、常に神経が過敏になります。
記憶を想起させる状況や場面を避けるようになる
何気ない日常生活の中に、つらい記憶を呼び起こすきっかけがたくさん隠れています。PTSDの多くは、記憶が何度も呼び覚まされるため、こうしたきっかけを避けて生きるようになります。
きっかけが何であるかはご本人にしかわかりませんし、ご本人でさえ気づいていないこともあります。
自覚がない場合でも、気づかないうちにそのような状況を避けるようになります。その結果、行動が制限され、普通の日常生活や社会生活が送れなくなることも多くなります。
感情や 感覚の麻痺
つらい記憶で苦しむことを避けるために、感情や感覚が麻痺してしまうことも少なくありません。そのため、家族や友人に対して抱いていた愛情や優しさを感じることができなくなったり、他人を許すことができなくなったりします。
これはつらい体験の記憶からこころを守るための自然な反応と言えます。
症状がいつまでも続く
このような症状は、つらく恐ろしい体験をした直後からほとんどの方に現れます。したがって、事件や事故から1ヶ月ほどは、自然回復を待つようにしてください。
数ヶ月が経っても同じ症状が続いたり、悪化したりする傾向がある場合は、PTSDの可能性を考え、専門医に相談してください。
心的外傷後ストレス障害
(PTSD)の治療
環整調整
何がきっかけでつらい記憶が蘇るのかはご本人にしかわかりませんし、日常の何気ない場面にもきっかけが潜んでいることもあります。逆に、蘇ったきっかけに対して、ご本人も気づかないうちに無意識にその事柄を避けたり、防御行動をとったりすることもあります。その結果、行動が制限され、通常の生活や社会生活が送れなくなることも少なくありません。
まずは事件や事故から1ヶ月ほど経って症状が自然に回復するかどうかを待ち、数ヶ月経っても症状が続いたり悪化したりするようなら、PTSDの可能性も考えて受診することをお勧めします。治療は、ストレスの軽減を目的とした環境調整を行い、基本的な日常生活に戻るための方法や手段を一緒に探っていきます。
お薬の治療
抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)はPTSDに有効で、副作用が少ないことから第一選択薬となっています。SSRIで脳内のセロトニンを増やすことが抑うつ気分、不安、神経の緊張、フラッシュバック、感情や感覚の麻痺などのPTSDでみられる多くの症状に効果があります。その他のお薬として過覚醒、悪夢、睡眠障害にはアドレナリンを抑えるお薬が有効との報告があります。自傷行為、爆発的な怒りにはドパミンを抑えるお薬が使われることがあります。第一選択薬のSSRIはお薬の治療の中心として積極的な投与が推奨されますが、その他のお薬はトラウマ体験後に症状が強く長期化した場合に、自制心のコントロールや生活上の影響を改善する目的として一時的に用いられることが多いです。
認知行動療法
認知行動療法はトラウマの治療に用いられます。
代表的なものとしては、持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)などがあります。
持続エクスポージャー療法は、安全な環境でトラウマの記憶を呼び起こし、トラウマを克服する方法です。認知処理療法は、考え方(認知)と行動に焦点を当てた問題解決法です。眼球運動脱感作療法は、過去のトラウマ体験と向き合い、眼球運動を通じて症状を軽減し、記憶を適切に処理していくことで治療します。医師の診察で認知行動療法が必要と判断された場合には専門とする医療機関をご紹介いたします。