女性のメンタルヘルス WOMEN'S MENTAL HEALTH

Women’s Mental

女性のメンタルヘルスとは

女性は、女性ホルモンの急激な変化や、さまざまなライフイベント(就職、結婚、妊娠、出産、育児、介護など)による環境、役割の変化などにより、メンタルヘルスの問題を抱えやすいといわれています。特に女性は、どの年代でも男性よりもうつ病になりやすく、近年では女性の社会進出が進んだことにより、ストレスも多様化しています。
お子様やご両親などの世話を優先し、ご本人のことは後回しにしてしまい、疲れ切って何もできなくなることもあるでしょう。また、月経前、出産後、更年期などのホルモンバランスの乱れが影響し、家事や育児が難しくなり、気分が落ち込むこともあるでしょう。当院では、まずお話を伺った上で、適切なお薬での治療や心理療法を行い、社会支援の紹介などをご提案し、必要に応じて産婦人科とも連携します。

月経前症候群とは

月経前症候群とは月経開始前の数日から10日間に渡り続くこころの不調と身体的な不調のことで、月経開始とともに改善もしくは軽減するものを月経前症候群(PMS)といいます。原因ははっきりと分かっていませんが、女性ホルモンの変動が関係していると考えられています。このホルモンの変動が脳内の情報伝達に影響をあたえ、情緒の不安定、イライラ感、気分の落ち込み、眠気などのこころの不調や、頭痛、腹部膨満、腰痛、のぼせなどの体の症状を引き起こします。脳内の情報伝達は心理的なストレスの影響を受けるため、女性ホルモンの変動だけでなく多くの要因から起こるといわれています。
特に精神的な症状が強く対人関係に影響が及んだり、抑うつ状態が深くなり自宅にこもりがちになったり社会生活に影響する場合には月経前不快気分障害(PMDD)といいます。本人ではコントロールできないイライラ、怒りっぽさ、後先を考えずに行動してしまう衝動性から周囲とぶつかり、本人が苦しいことはもちろん、周囲との不調和を生んでしまいます。抑うつ状態が深くなることで仕事や学校に行けなくなったり、家事が適切にできなくなったりと日常生活に影響がでます。この病態にはうつ病などの気分障害や、不安障害、パーソナリティ障害などが併存している場合があるためその可能性についても留意して診察をすすめていきます。

月経前症候群の原因

さまざまな原因があるとされていますが、月経周期に関連して変動する主にエストロゲンとプロゲステロンとよばれる女性ホルモンが関係しているといわれています。

月経前症候群の症状
(生理前の症状は?)

  • 急に気分が落ち込み、何もやる気が起きない
  • 不安がある
  • 情緒の不安定
  • 理由もなく涙が出る
  • 物悲しい(ちょっとしたことで涙が出る)
  • 頭が重くてぼんやりする
  • 生理前になるとイライラする
  • 眠気、過眠がある
  • お腹が張って不快感がある
  • 体のむくみが気になり倦怠感もある
  • 食欲不振もしくは過食になる
  • 人に会いたくなくなる
  • 物にあたる
  • 周囲にあたってしまう
  • 集中力がなくなりミスが増えた

など

これらの症状が月経開始前の数日から10日間にでて、月経開始とともに改善もしくは軽減します

月経前症候群の治療

まずは本人自身で症状を捉えてそれに対応していくためにセルフケアを取り入れ、その上でお薬の力を使った治療を行います。月経前症候群では月経にあわせて周期的に症状がでるため、この症状と付き合っていくためにご本人の周期を知り、その時期にどのような症状が出たか、どのような行動をとったか日記やメモに記すなどしてこころの状態を把握します。本人のリズムを知ったうえで適切な時期に気分転換を取り入れたり、リラックスする時間を作ったりして本人が過ごしやすいようなセルフケアを取り入れていきます。
お薬の治療では漢方薬により情緒の不安定やイライラ感などのこころの治療やのぼせなどの体の症状の治療を行います。またSSRIといわれる抗うつ薬を低用量で用いて脳内の神経細胞の情報伝達にかかわるセロトニンとノルアドレナリンの働きを助けることで気持ちの安定を図ります。お薬での治療は主に月経開始予定日の2週間前から症状にそなえて事前に内服を開始し、月経が開始した後に中止します。漢方薬についてはご本人と相談しながら症状に合わせて継続して使用することもできます。

産後うつ病とは

産後うつ病とは産後うつ病は、出産後2週間~3ヶ月以内に発症することが多いうつ病の一種です。気分の落ち込み、不安、興味や楽しみの喪失、不眠、自責の念、気力や自尊心の低下などの症状が2週間以上続きます。重症化すると、消え去りたい思いが生じ、自傷行為や希死念慮に繋がることもあります。産後うつ病は母子ともに大きな影響を及ぼす可能性が高いため、妊娠・出産を経験した女性が注意すべき病気の1つです。

産後うつ病とマタニティーブルーの
違い

マタニティーブルーとは、妊娠中から産後にかけて憂鬱な気分や落ち込みを感じる状態のことです。産後うつ病と同様に心身に変調をきたしますが、マタニティーブルーは通常、2週間程度で症状が治まります。一方、産後うつ病は産後6~8週に発症することが多く、症状が長引くことが特徴です。マタニティーブルーは短期間であれば特別な治療は必要ありませんが、産後うつ病は適切な治療を受けないと悪化する恐れがあります。両者は発症時期が重なるため混同されがちですが、産後うつ病は放置すると悪化することがあるため要注意です。マタニティーブルーは漠然とした不安や落ち込みが主な症状ですが、産後うつ病では不眠や食欲不振、強い不安、涙もろいなどがみられます。

産後うつ病の原因

産後うつ病の原因は主に3つあります。
1つ目は、慣れない育児による大きな肉体的負担です。
新生児は3~4時間おきに授乳する必要があるため、親は慢性的な睡眠不足になりがちです。
また、赤ちゃんをあやしたり、おむつを替えたり、寝かしつけたりと忙しい日々を送るため、疲労が溜まりやすくなります。
肉体的に疲れていると気分も落ち込みやすくなり、うつに陥るリスクも高まります。
2つ目は、育児への不安や環境の変化によるストレスです。
育児は試行錯誤の連続のため、漠然とした不安を抱えてしまいがちです。
周囲のサポートがあれば不安や悩みを共有できますが、いわゆる「ワンオペ育児」をしているなど、誰にも助けてもらえない状況だとストレスや不安を溜め込みがちになります。
特に出産後は女性ホルモンの変化により脳のストレス耐性が低下するといわれており、普段なら問題にならないことでも不安に感じてしまうことがあります。
3つ目は、分娩後のホルモンの急激な変化による影響です。
妊娠すると女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンやプロゲステロンというホルモンの血中濃度がおおよそ10ヶ月かけて少しずつ増加し、分娩直前に最高値になります。これが出産後に数日で急速に減少することで脳や体がホルモンの急激な変化についていくことができず自律神経のバランスが崩れてしまうことで憂うつな気分や不安などを感じやすくなります。

産後うつ病になりやすい人

産後うつ病は出産経験のある女性なら誰でも発症する可能性がありますが、以下の特徴を持つ女性は特に発症リスクが高いといわれています。

  1. 真面目で責任感がある
  2. 完璧主義者
  3. 家族との関係が良好ではない
  4. 周囲に助けを求められる人がいない
  5. マタニティーブルーを経験したことがある
  6. 過去に精神疾患を患ったことがある

産後うつ病の症状

産後うつ病の症状は人によって異なりますが、次のような症状がみられることがあります。

  • 不眠症、睡眠が浅くなる
  • 食欲不振になった
  • 吐き気がする
  • 涙もろくなった
  • 強い不安感に襲われる
  • 気力や性欲の喪失
  • 慢性的な疲労、倦怠感がある
  • 日常生活が困難
  • 母親として自分がダメなんじゃないかと感じる
  • 容姿を気にしなくなる
  • 赤ちゃんを愛せなくなる
    (お世話をするのがつらい)
  • 笑顔が減る
  • 急に涙が出て止まらなくなる
  • 人に迷惑をかけている感じがする
  • ひどく孤独で誰にも頼れない気がする
  • 自傷行為や希死念慮

など

上記の症状が多いほど、産後うつ病である可能性が高くなります。
これらの症状の一部はマタニティーブルーの症状と重なりますが、症状が2週間以上続く場合は産後うつ病である可能性が高いため、専門医の診察を受ける必要があります。

産後うつ病の治療

産後うつ病の治療は一般的なうつ病と同様で、抗うつ薬の投与が主な方法です。
授乳中の服薬に抵抗を感じる方も多いかもしれませんが、近年ではいつ、どのような副作用がどのくらいの頻度で起こるのかといった医学的データが蓄積されており、安全なお薬による治療が確立されつつあります。
服薬以外にも、産後うつ病に効果があることが実証されている認知行動療法や対人関係療法などもあるため、ご自身に合った治療法を見つけましょう。

育児ノイローゼ

「育児ノイローゼ」とは、育児のストレスやプレッシャーによって発症する精神状態のことです。一般的に「ノイローゼ」は神経症の一種で、日常的なストレスやプレッシャーが蓄積することで心身に不調をきたした状態を指します。
実は、「ノイローゼ」は一般的な医学用語として世間に普及しているものの、現代医学では正式な病名ではありません。そのため、「育児ノイローゼ」には医学的な明確な定義がありません。そのような事情から、育児ノイローゼとは、「育児に伴うストレスによって精神的に不安定な状態」を指す言葉として、広く使われるようになっています。

育児ノイローゼの原因

ワンオペ育児

育児を分担するパートナーを持たず、1人きりで赤ちゃんと向き合っている親はいつの時代にも多いものです。このような状況では、育児の負担が重くのしかかり、精神的に追い詰められやすくなります。

パートナーが理解・協力してくれない

パートナーがいたとしても、子育ての仕方について意見が合わないこともあるでしょう。
また、こちらが休みたいと思っても、パートナーが協力してくれず、行き詰まりを感じることも多いと思います。

完璧を求める性格

親と子どもは別人格です。ご自身のことは完璧にできても、子育てはうまくいかないということもよくあります。完璧主義的な性格の方は、うまくいかないことに折り合いをつけるのが難しく、精神的な負担に繋がりやすくなります。

赤ちゃんと2人きりの環境

育児中、特に産後すぐは、赤ちゃんと2人きりで過ごす時間が長くなります。大人のように言葉による意思疎通ができない赤ちゃんと2人きりで過ごすには、かなりの気力が必要です。「今日はよく寝てくれなかった」「昼間笑った」など、ちょっとした話でも、誰かと共有できることは大きなストレス解消になります。話し相手がいないと、子育てはつらいものになります。

育児ノイローゼになりやすい人の特徴

  • 完璧主義
  • 理想が高い
  • 人に弱さを見せられない
  • ストレスをため込みやすい

育児ノイローゼ(育児ストレスで精神的に不安定な状態) の症状

  • 子どもが泣くと叱ってしまう
  • 子供が泣き止まなくて
    もう限界といった感じがする
  • 家事や育児が手につかなくてパニックになる
  • 頼りたいのに、夫や家族に厳しく接してしまう
  • 子育てがうまくいかず、
    母親失格のような気がする
  • ご自身の人生をどうしたらいいのか
    悩むことが多い
  • 一人になりたくて逃げ出したくなる
  • 何をやっても完璧にできない感じがして焦る
  • 夜中に何度も起きて、
    起きるたびにもうダメだと感じる
  • 手伝うと言われると腹が立つ
  • 家事の優先順位がつかない
  • 頭が重くぼんやりして、
    モヤがかかったようですっきりしない
  • 散らかった部屋を見ると心底嫌になる
  • 子どもと2人きりで過ごすのがつらくなる
  • 子どもを他所へ預けると、
    罪悪感でこころが落ち着かない

など

育児ノイローゼ(育児ストレスで精神的に不安定な状態) の治療

できるだけパートナーと一緒に受診し、育児への参加の必要性を医師から説明し、ご本人の孤独感を和らげることが大切です。
ご実家や義理の両親からサポートを受けられる場合、可能であれば一時的に同居し、アドバイスやサポートを受けながら安定した毎日を送るようにしましょう。
情緒不安定、イライラ感、うつ状態が改善しない場合は、症状を緩和するために抗うつ薬などのお薬が処方されます。お薬は症状へ効果があり、副作用の少ないものを選択します。
ただし、お薬を服用すると、その成分が母乳に移行し、赤ちゃんに影響を与えるリスクがあります。そのため服用を開始する際には、お薬の種類によっては母乳から粉ミルクに切り替える必要があります。

更年期うつ病

更年期うつ病更年期とは、個人差はありますが、閉経前後の5年間と、40代後半~50代前半の10年間のことを指します。更年期女性の約20%が「気持ちが落ち込む」などの抑うつ症状に悩まされているというデータもあり、実際に更年期とうつ病には密接な関係があるといわれています。
また、男性よりも女性の方がうつ病にかかりやすく、更年期になるとそのリスクがさらに高まることも明らかになっています。

空の巣症候群とは

お子様たちが進学や就職などで家を離れることによる孤独感や空虚感、また、夫が仕事で不在なことが多いことで孤独感がさらに増す状態をいいます。その他にも、老後のことを考えるなど、ご夫婦のライフプランに不安を感じる時期でもあり、悲観的になり、抑うつや不安症状が強まることも多くあります。

更年期うつ病の原因

女性ホルモンの減少

女性は卵巣で女性ホルモンのエストロゲンを分泌しています。エストロゲンは、リラックスや幸福感をもたらすセロトニンという幸せホルモンの分泌を促します。
閉経とともにエストロゲンが減少すると、セロトニンの分泌も減少し、気分が落ち込むなどの抑うつ症状が現れます。

心理的・社会的ストレス

更年期は女性のライフステージにおいて、しばしば変化が多い時期です。お子様が成長して子育てが一段落する時期であったり、会社勤めを続けていると重要なポストに就いたりすることもあります。
また、前述のようにエストロゲンの分泌が減少することで、肌の調子が悪くなったり、スタイルが維持しにくくなったりと、美容面でもストレスを感じることがあります。このような体の変化以外にも、更年期うつ病の原因はあります。

更年期うつ病の症状

  • 物事に対する興味や楽しみがほとんどない
  • 何もかも面倒に感じる
  • 今までやってきたことが無意味に感じる
  • 気分が落ち込んだり、憂鬱になったり、絶望的になったりする
  • 気分の浮き沈みが激しく、
    自分でコントロールできない
  • 急に涙が出ることが増えた
  • 疲労感や気力不足を感じる
  • ご家族や、ご自身に対して申し訳なく思う
  • イライラすることが多く家族に当たってしまう
  • 眠りが浅く、夜中に途中で目が覚めたり、
    逆に眠りすぎたりする
  • 食欲不振または過食
  • 動作や話し方が遅くなったり、
    逆にそわそわしたりと落ち着きがなく、
    いつもより動き回る

など

更年期うつ病の治療

お薬の治療として、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に代表される抗うつ薬や漢方薬、抗不安薬を用います。
同時に更年期障害の治療が必要なことがあり、女性ホルモンの補充療法などが検討されることがあります。この場合は必要に応じて連携する産婦人科をご紹介いたします。なお、更年期障害が疑われるこの時期は、女性ホルモンの低下だけでなく、さまざまなライフイベントの変化によるうつ病の可能性もあります。
うつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下などの精神的な症状だけでなく、頭痛、めまい、動悸などの自律神経症状を引き起こすこともあります。
うつ病になると、家事の効率が悪くなったり、イライラしたり、強い不安を感じたりすることがあります。
更年期障害の治療をしていてなかなか改善しない場合は、うつ病の可能性も考え、まずはご相談ください。

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