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「社交不安障害を克服する」
~注意の切り替えにより観察者の視点に立つ~

社交不安を克服するために

前回は社交不安障害がどのような原因で病態を作り、不快な不安感情や身体症状を生んでいるか、その病態がどのような心理状態で悪循環になるかについてお伝えしました。克服するために、まずはこの病態の理解と悪循環の気づきが大切です。その上で、悪循環を助長している「注意の偏り」について、ご本人でできる訓練があります。今回は社交不安障害を克服するために、具体的にどのようなことに取り組めばよいかお伝えします。

注意の切り替え

社交場面で、不安感情や身体反応を感じると「ドキドキしてきた」「周りからどう思われているのだろう」と注意が自分自身に向きます。これにより注目されているという意識が高まり、更に不安感情は強くなります。また、外部に注意を向けることができなくなると、他者の現実の反応に気付くことができていないとされています。
これを改善するために「注目される側」から「相手を観察する立場」になり、自分自身に向かっている注意を外部へ向けることが有効に働きます。
すなわち、社交場面で感じる不安感情や身体反応の「内部情報」への注意を、他者の様子や場の雰囲気の「外部情報」へ切り替える練習をすることが克服につながります。注意の切り替えが上手くいくと、他者の現実の反応をとらえることができ、悪循環を断ち切ることができます。具体的にどのような方法を用いるか見ていきましょう。

注意の切り替えの訓練とは

「注意の切り替え」を柔軟にできるようになるためには、ご本人のモチベーションが大切で、それなりに時間をかけた訓練を要します。事前の準備なく社交の場で、いきなり観察者の視点になることを意識してもうまくいきません。まずは、ひとりで居るときにできる練習から始めましょう。

外部情報へ注意を向ける

外部情報の収集に、人は視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を主に使っています。それぞれの感覚を意識して外部情報に注意をむけます。五感のうち、特に視覚による情報の収集が優位に働いているため、まず視覚を使ったトレーニングから始めてみると良いでしょう。たとえば、部屋の中にある物の色を数えて、それが何色か、いくつあるかを声に出して意識します。さらにその色の濃淡や、光や影、模様を詳しく観察します。視覚からの外部情報についてメモを取り、普段の生活で新しく気づいたことや発見したことについても認識を深めてみてもよいでしょう。

内部情報へ注意を向ける

外部情報をしっかり収集できたら、今度は自分自身の内部情報に注意を向けます。普段は意識することのない心臓の鼓動や、息を吸っている、吐いているなどの身体の動きを集中して感じます。また、仕事のこと、将来の生活、最近の悩み、楽しかったことなど自分の考えである内部情報にも同様に注意をむけます。外部情報を気にならなくなるくらい自分自身の考えに深く没頭できるほど有効です。
この時の留意点として、過去の社交場面は振り返らないようにしましょう。社交場面での否定的な自己イメージを作らないようにするためです。

注意を切り替える

外部情報と内部情報を上手く収集できるようになったら、今度は注意の向きを自由に操れるように訓練します。外部情報と内部情報に交互に注意を向けることで「注意の切り替え」の練習になります。これをひとりでいる時に、毎日最低でも複数回、注意の切り替えの練習をしましょう。根気よく繰り返すことが大切です。視覚情報での切り替えが上手くできれば、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の他の感覚についても同様に練習を行います。視覚以外の感覚で行う時には目を閉じて視覚からの情報を遮断することで集中して外部情報に向けることができます。

視覚

部屋にある物の色を数える、さらにその色の濃淡や、光や影などを観察する。電車の対面の席に座っている人の表情、服装、眼鏡の反射、化粧、髪の毛などに注目する。

聴覚

聴覚情報に注意をするときには、視覚を遮断するために目を閉じるとよいでしょう。換気扇の音、車の排気音、電車の音、鳥のさえずりなどに注意をむけます。

嗅覚

同様に目を閉じて、嗅覚情報に集中しましょう。部屋のにおい、香水のにおい、などに注意をむけます。

触覚

座っているソファの座り心地、椅子の手すりの材質、触れた温度などに注意をむけます。

味覚

飲み物の味、唾液の味、食べ物の味に注意をむけます。

注意の切り替えを実践する

次に日常生活で必然的に遭遇する社交の場面で実際に注意の切り替えを実践します。この時に挑戦するのは不安が弱い社交の場面から実践しましょう。いきなり不安が強い場面に挑戦しても上手くいかないからです。
社交不安障害では全く知らない人と対峙する場面や、反対に家族などの親しい間柄の人では不安は起こりにくいとされています。まずは、これらの不安が弱い場面で外部情報へ注意を向ける練習をしましょう。
例えば、毎日の通勤の電車内で、対面の席に座っている人の着衣、髪型、眼鏡の色、表情、顔のしわ、靴の汚れ、ネクタイの質、などに注意を向けてみましょう。また普段の家族との会話の中で、表情、肌色、服装などいつもの家族と違う様子に気づけるように注意を向け観察します。これらの不安の弱い社交場面では、自分自身の内部情報についても注意を向けて、注意の切り替えを練習します。

不安の強い場面では無理をしない

不安の強い社交場面で相手との会話のやり取りについていけない場合は、無理をせずに自分自身への内部情報への注意の切り替えは一切行わず、外部の情報に注意を向けるようにします。また、会議などのコミュニケーションのない場面でも自分自身へは注意を向けずに、参加者の年齢、男女比など外部の情報について注意を向けることだけに集中します。

社交場面で外部情報だけに注意を集中する

最終的には、社交場面で自分自身の内部情報には注意を向けずに、外部情報である場の雰囲気や相手に注意を向けることだけを意識します。すなわち「相手を観察する立場」になることが目標です。
会話も外部情報に注意が向くよう相手の化粧、服装、髪型などを自然に褒めたり、場の雰囲気である会場の装飾品、照明、食事の味や質などへの気づきについての会話内容にしたりすると良いでしょう。

社交不安を注意の切り替えで克服する まとめ

社交不安障害では、ご本人が気づかないうちに否定的な自己イメージを作ってしまい、悪循環を起こしてしまいます。否定的な自己イメージを作る原因のひとつに、社交場面での「注意の偏り」があります。注目されているという意識から「相手を観察する立場」になることで自分自身に向かっている注意を、外部へ向けることが克服に有効とされています。
注意を切り替えるスキルは練習することで習得することができます。普段の生活の中で無理ないように練習することで、社交場面での不安の克服に役立ててみてください。
当院では、働き世代が向き合うことの多い会社の懇親会、同僚や上司との雑談、接待での会食などの社交場面での不安障害や、プレゼンテーション、電話対応、大勢の会議での報告などの特定の場面で症状が出るパフォーマンス限局型の社交不安障害の治療にも力を入れています。

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