「ストレスを対処する力」
~生きている限りストレスは避けられない~
生きている限りストレスは避けられない?
日々の生活でストレスを感じずに過ごしている方は少なく、多くの方がストレスを抱えながら生活を送っています。適度なストレスは人生の活力にもなりますが、負担が大きすぎると心身ともに不安定になります。苦境や逆境が訪れた時に、それを乗り切れる方と、そうでない方といるのはなぜでしょうか。
これについて、前回は 「ストレスに強くなる」~ストレス耐性を高めるためには~ というテーマでお伝えしました。ストレス耐性には、それを構成するいくつかの要素があるとされ、これにより個人のストレスへの耐性が決まるとされています。ストレス耐性は、日常生活や仕事、対人関係において逆境や困難などが生じた際に、重要な役割を果たします。 ストレスを深刻に捉えることなく、うまく受け流したり、ストレスを良い方向に捉えなおして解釈することもストレスと上手く付き合っていくための大切な要素です。
一方で、人は一生のあいだ常にストレスの中で生きて、さまざまなストレスにさらされながら生活すると仮定すると、「生きている限りストレスは避けられない」という考え方もあります。今回は、そのような避けられないストレスと根本的にどう向き合っていくか、どのようにストレスを処理していくか、過去の歴史上の出来事からこの視点に着目して提唱された概念を取り上げて、具体的に説明します。
ストレス耐性を構成する要素のひとつである「ストレスを対処する力」をどのように高めていけば良いか理解することで、日々のさまざまなストレスと上手く向き合い、ストレスを上手く処理して、逆境や困難な場面に適応するための参考にしてください。
ストレス対処能力とは
ストレス対処能力を説明するうえで、ここではSOC(Sense of Coherence)という健康社会学の観点から提唱された概念を取り上げます。この概念は、「人は一生のあいだ常にストレスの中で生きており、さまざまなストレスにまみれながら生活して、人生を送る」ということが前提となっています。つまり、生きている限りストレスは避けられないものであり、避けられないならストレスとどう向き合っていくか、どのようにストレスを処理して、環境に適応していくかに焦点をあてています。
現代の予防医学では、たとえば高血圧症であれば、食事や運動などの生活習慣に注目して、塩分を控えることや、運動不足を解消するなどの、「リスクファクターを取り除く」ことに重きが置かれています。 一方、このSOCでは、ストレスを取り除いたり、回避することではなく、ストレスをうまく対処しながら適応し、これと付き合いながら日々を生活し、人生を歩んでいくことをイメージしています。歴史上の出来事から健康を維持できた方が、なぜ健康を回復させ、それを増進させることができたのか、この「健康が作られた理由」に注目し、健康社会学の観点から提唱したものです。
SOC(Sense of Coherence)という概念の由来
1970年代に健康社会学者のアーロン・アントノフスキー博士が提唱したものです。彼は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの強制収容所に収容されていた人々のその後のこころと体の健康状態を研究しました。極限のストレスを経験したにもかかわらず、その後の人生で心身の健康を維持している人たちが少なからず存在していることに注目しました。そこには困難を乗り越えるばかりか、その経験を、むしろ成長の糧にしている人々がいることを見い出しました。彼らは人生や生活に対する共通の見方や向き合い方を持っており、極限のストレス下にもかかわらず心身の健康を維持できた理由を博士は「SOC」の高さにあると説明しています。 SOCはSense of Coherenceの頭文字をとったもので日本語では「首尾一貫感覚」 と訳されます。
SOC(Sense of Coherence)「首尾一貫感覚」とは?
それでは、SOC(Sense of Coherence)「首尾一貫感覚」とは何でしょうか。具体的にみていきましょう。 「首尾一貫感覚」とは端的に説明すると、自分の生活世界は一貫して筋道が通っているという感覚です。人生で起こるさまざまな出来事は、首尾一貫して道筋が通っており、訳がわかる腑に落ちるという感覚です。さまざまな出来事をひとつの流れとして捉え、それらの辻褄を合わせて認識し、本人が納得できる感覚のことです。理不尽なことや理にかなっていない出来事があると、どうしても不快な気持ちになります。それに対して筋道が通っていたり、納得できたりするものであれば、それがたとえネガティブなものでも上手くストレスへの対処ができるということです。
SOC は、ストレスに対処するうえで重要な、 「把握可能感」、「処理可能感」、「有意味感」の3つの感覚から成り立っています。 これらの感覚の高い人は、ストレスを感じることがあっても、 うまく対処しストレスと折り合いをつけられるとされています。それぞれ見ていきましょう。
「把握可能感」
自分のこれまでの行動と結果が関連しており、置かれている現状を理解できることです。この感覚があると過去の行動に納得しつつ、今後の状況もある程度予測できるという感覚が自然とついてきます。例えば、仕事の中で把握可能感があれば、「今は、全体の業務のどの段階にいて、あと少し進めれば終わりが見えてくる」など、先行きが見える状況になります。真っ暗なトンネルの中で出口から光が差し込んでくると、希望が見えてきます。ゴールが見えてくると、それまで以上にやる気が出てきて意欲が湧いてきます。また、全体を見通した上で状況が悪いと分かることもあるでしょう。その場合には早めに周囲に助けを求めることで、業務を有利に進めていくことができます。
「処理可能感」
これまでもやってきたしなんとかなりそうだ、と感じられることです。ご自身の能力だけでなく、自身が使える全ての手段、物、人、リソース、援助などはいつでも自分の周りにあり、どんなタイミングでも引き出すことがきるという感覚です。自身や確信をもつことで、困難な状況でも乗り越えることができます。人生の中で困難な状況は目の前にある今のストレスだけではなかったはずです。誰もが、さまざまな逆境や困難をいろいろな手段をこうじて乗り越えてきています。今あなたがここにいるのは、自身が使える手段を使いながら乗り越えてきたことの証でもあります。その成功体験を踏まえて、現在の困難も「きっと乗り越えられる」と確信する力です。
「有意味感」
ある出来事は自分にとっても意義があり価値を見出せるもので、やりがいを見いだせる感覚のことです。例えば、数学の勉強が、将来の役に立つのか疑問を感じストレスを抱えている受験生もいるでしょう。今は面白いと思えない公式の理解や微分積分でも、別の角度や視点から捉えるとより意味があるものになります。たとえば、それらは情報工学や量子力学に繋がる分野であり、実生活に結びついているのだと、今自分が勉強する意味や面白味を見つけようとする柔軟な姿勢で、取り組む意味を見出すと、モチベーションが上がりストレスを感じにくくなります。
ストレスを対処する力 まとめ
このように、SOCは生きている限りストレスは避けられないことであるという前提のもと、ストレスをどのように処理して、環境に適応していくかに焦点をあてています。その上でストレス対処能力を規定するのに重要な「把握可能感」、「処理可能感」、「有意味感」の3つを説明しています。「生活全般でこうした確信の感覚や向き合い方をもつことができている人ほど、挑戦的な状況や深刻な逆境、困難にさらされても、そのストレスフルな状況に耐え、上手くその環境に適応し対処することができる、つまり、ストレス対処能力が高いのである」と説明されています。
ストレス対処能力が高いと挑戦的な状況や深刻な逆境にさらされても、その環境に適応し成功するためのプロセスを踏んでいけます。ストレスを除去したり、ストレスを深刻に捉えずにうまく受け流したり、ストレスを良い方向に解釈することも大切な要素ですが、「ストレス対処能力」を高めるという観点から、このSOC(Sense of Coherence)「首尾一貫感覚」をひとつの参考にしてみて下さい。
当院では働く方のメンタルヘルスにも力を入れています。仕事でのストレスにお悩みの方はお気軽にご相談ください。