「やる気が出ない」・
「何もしたくない」状態とは
仕事や家事など、やらなければならないことがあるのに「やる気が出ない」「何もしたくない」と感じた経験は誰にでもあるでしょう。やる気がでないと一言で表現してもさまざまな状況やその程度があり、次のような形で仕事や日常生活に支障をきたすことがあります。この状態が重度になると一日中、家で寝たきりになる方もいます。
- やるべき仕事を先延ばしにした結果、気が重くなりますます着手しにくくなる
- 特に理由もなく仕事への意欲がわかず、会社にいるのがつらい
- 人と話すことに苦痛を感じる
- やるべきことがあり頭で分かってはいるが、体がついてこない
- 寝ても休んでも一向に疲れが取れない、体が重く感じる
- 家事や用事を先延ばしにしてしまった挙句、一向にとりかかれない
- 休日に買い物や散歩など外出する気が起きず、1日中家に引きこもっている
- 体が思うように動かせずベッドに横になることが増えた
- 以前は楽しんでいたことに取り掛かる気力がない
など
「なぜやる気が出ないのか?」の理由は多くあり、すぐに明確な理由や原因を見つけるのは難しいことがあります。なかには心身の不調や何かしらの病気に関係している時もあり、原因とその対処法を知っておくと役に立つかもしれません。
やる気が出ない原因
精神的ストレス
ストレスの多い環境下にいると脳の機能異常を起こし精神的な活動が停滞することで、「やる気が出ない」という状態になることがあります。職場や学校で過度のプレッシャーを感じたり、業務負担やご自身に合わない仕事の内容であったりなど環境要因からストレスを受けることが往々にしてあります。また、対人関係から生じた問題もストレスの原因となることが多くあります。会社で同僚や上司、部下との意思疎通に問題あったり、ハラスメントを受けたり、あるいはプライベートでの家族や友人、恋人との関係性の不和などが考えられます。最近では多くの方がSNSをコミュニケーションツールとして利用していますが、便利である一方で、過度な交流に疲れたり、他者の発言が気になったりすることでストレスの原因にも繋がりますので、適度な利用に留めるようにしましょう。
劣悪な職場環境
劣悪な職場環境は、「会社のために一生懸命働きたい」「チームのメンバーと一緒に成功したい」という前向きな気持ちを削いでしまいます。
例としては、長時間労働、休暇の少なさ、尊敬できない上司、やる気のない社風、いじめやハラスメントが横行する組織などです。職場環境が悪く不満が募ると、人々は会社のために一生懸命働こうという気持ちが薄れる傾向があります。上司や同僚などの考えや態度に影響され、ご自身もやる気を失ってしまうことがあります。
満足な評価が得られない
頑張っているのに会社からの評価が低い、あるいは会社への貢献に見合った給与が得られない時などに多くの方々が仕事へのやる気を失ってしまいます。
会社からの評価に満足できないと、担当している仕事内容やご本人自身が認められていないと感じてしまい、「評価されないなら頑張っても意味がない」と仕事への意欲が減退してしまいます。
また、評価は受けても給与が低いとやりがいが損なわれます。仕事の目的の1つは、生活を豊かにすることであるため、給与への不信感は会社への不満を生み、やる気をなくす原因にも繋がります。
仕事への興味の欠如
ご自身の希望と現実とのミスマッチが原因で、仕事への興味や意欲が失われることも珍しくありません。誰もが希望する仕事に携われるわけではありませんし、希望する会社に入社しても、望んでいた職種に就けないことはよくあることです。
また会社特有の文化や雰囲気に違和感を抱いたり、自社の製品やサービスに魅力を感じなかったりすると、興味や意欲を失ってしまいがちです。
仕事がマンネリ化する
毎日の仕事に変化がなく、マンネリ化してしまい停滞感を感じると、仕事に対する意欲は簡単に下がります。人間は適度な刺激を求める生き物であり、刺激があると意欲が湧いてきます。たとえば、いつもと同じ仕事に向かうために、同じ満員電車に乗って通勤することにふと疑問を抱き始めます。変化がない仕事を定年まで何十年も繰り返すのかと、仕事がマンネリ化して刺激が削がれてしまうことで、やる気が起きなくなることがあります。
やる気が起きず、何事も先延ばしにしてしまう
何をするにも気が進まないことで物事を先延ばしにしてしまうと、これにより山積みに溜まった問題に直面する時が必ず訪れます。解決するためにはあまりにも大きな労力が必要であることに気付いて絶望し、ますます取り組むことができなくなるなど、やる気が起こらなくなることがあります。
かつてやる気があった仕事や興味に対する、やる気の欠如
ライフステージや価値観が変化するにつれて興味や嗜好が変わり、やる気がなくなることもありますが、この場合にはご本人も納得のいく理由があることが多いです。以前はやる気があったり興味があったりしたことに対して、数ヶ月くらいで突然やる気がなくなった場合は、単純な興味や嗜好の変化ではない可能性を想起します。うつ病などの病気が関係している可能性があるため、診察で丁寧にお話を伺い、その原因を考えていきます。
責任転嫁
責任転嫁にエネルギーを費やしてしまうことで、必要なエネルギーがなくなり、やる気が湧かなくなることがあります。「仕事がうまくいかないのは上司のせい」など他者に責任を求める傾向があると、主体性がなくなり、徐々にやる気もなくなってきます。
もちろん原因や責任がご自身とは関係のない場合もあるでしょう。しかし常に責任転嫁したり、他者を責めたりするような傾向があると、物事に対するやる気はでてきにくいと考えられます。
極度の疲労で、いくら休んでも改善しない
心身ともに疲労していると、本来の能力を十分に発揮できず、やる気を維持することが難しくなります。休んでも疲労が改善せず翌日に持ち越す場合は、特に注意が必要です。また、残業や休日出勤、あるいは家事や育児に追われるなどの理由で、十分な睡眠が取れないことも疲労から回復せず、判断力や集中力の低下だけでなく意欲の低下を招くことがあります。
運動や日中の活動量の減少
運動や日光を浴びることで分泌されるドパミンやノルアドレナリンは、やる気や意欲に影響を与えます。病気やケガで日中の活動量が減ったり、昼夜逆転のシフトワークやリモートワークで日中に外出できなかったりすると、これらの物質のバランスが崩れてやる気が出なくなります。日中に自宅で過ごすことが多くなりがちの方で、やる気の出ない方は、意識して日光を浴びることや体を動かす機会を作りましょう。
乱れた食生活や食欲不振による栄養不足
偏った栄養バランスや食欲不振などによる栄養不足があると、脳機能の低下に繋がります。脳細胞が必要とするエネルギー源はブドウ糖ですが、これらはごはんや小麦などの炭水化物から作られます。脳が正しく機能するための必要な栄養素が不足すると、エネルギーを利用することができず、やる気や意欲が出なくなることがあります。
やる気が出ない時に考えられる病気
うつ病
うつ病は、1日中気分が憂鬱になる抑うつ気分と、何もする気が起こらない意欲の低下、以前は楽しめた事が楽しめなくなる興味や喜びの喪失が特徴です。この状態がほぼ毎日続きます。その他の症状として体重減少、食欲不振、不眠あるいは過眠、焦燥感、疲労感、無価値感、自己否定、思考力の低下、希死念慮などが見られるようになります。誰もが一時的にやる気が出ないことや憂うつ感は経験するものですが、この状態が長期間続く場合はうつ病である可能性があります。
躁うつ病(双極性障害)
うつ病はうつ状態のみが続く病気ですが、躁うつ病はうつ状態に加えて極端に活発になる躁(そう)状態も現れ、うつ状態と躁状態を交互に繰り返します。かつては躁うつ病と呼ばれていましたが、現在は双極性障害と呼ばれています。躁状態では、睡眠不足でも活動的となり、アイディアが次々と浮かび、ご自身の能力を過大評価することがあります。また、社会生活に悪影響を及ぼすこともあります。軽い躁状態を見逃してうつ病と診断されることもあり、治療が効果的でない場合は双極性障害が隠れている可能性があります。双極性障害の治療目標は、躁状態とうつ状態の波を上手にコントロールすることです。
適応障害(適応反応症)
適応障害は仕事やプライベートでのストレスにより、抑うつ気分、不安や焦燥感、イライラ、頭痛、不眠、食欲不振など心身の不調が引き起こされるこころの病気です。適応障害でもやる気が湧かず、何事にも億劫になることがあります。仕事でストレスを感じている場合は、出勤しようとすると症状が現れることがあります。
ストレスを自覚してから3ヶ月以内に症状が顕著になり、社会生活に支障をきたします。一般的なこころの病気の診断基準を満たさない場合は、適応障害の可能性があります。
適応障害の症状が6ヶ月間続く場合は、うつ病などを併発している可能性があります。
自律神経失調症
自律神経失調症は正式な診断名ではありませんが、生活習慣の乱れやストレスなどで交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、心身にさまざまな症状が現れている状態のことをいいます。全身の倦怠感からやる気のなさや意欲の低下を自覚することがあります。その他の症状として、めまいや立ちくらみ、頭痛、朝の目覚めの悪さなどがあります。
認知症
認知症というと、物忘れを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それ以外にも意欲の喪失、自発性の低下、理解力や判断力、集中力の低下、性格の変化などさまざまな症状が現れます。特に今まで楽しんでいた趣味や家事などの日常の活動や、身の回りのことに興味を示さなくなり、関わり合いを避け、自発性が低下するアパシーという状態が起こります。
更年期障害
主に40代以降の男女にみられる更年期障害は、性ホルモンの分泌が減少することで、体調不良や情緒不安定などにより、日常生活に支障をきたす病気です。女性の場合、閉経前後の10年間にエストロゲンが急激に減少することで起こります。男性の場合は、テストステロンは加齢とともに徐々に減少していきます。
睡眠障害
睡眠に関連する病気を総称して睡眠障害といいます。睡眠障害は、目覚めの悪さ、日中の眠気でぼんやりしていることなどから、生活や仕事などの活動全般にやる気や意欲がわかなくなることがあります。主な病気として、寝つきが悪い、途中で目が覚める、早朝に目が覚めるなどの不眠症、日中に過度の眠気に襲われる過眠症(過眠障害)、睡眠のリズムが崩れる概日リズム障害(概日リズム睡眠・覚醒障害群)などがあります。また体の病気として睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグ症候群(むずむず脚症候群)や、アトピー性皮膚炎の痒み、神経因性膀胱の頻尿から睡眠障害がおこることがあります。
やる気が出ない時の対処法
ほんの少しから始める
「始める前は気が進まなかったが、やってみたら全く問題なかった」といった経験はありませんか。たとえば、出かける前は面倒に感じていたけれど、いざ出かけてみたら楽しかったというように、実際にやってみたら意外と良い方向に進んだことは多いと思います。
最初のうちは、ほんの少しから始めてみることを心理学ではベビーステップと呼び、小さな行動を1つずつ積み重ねていくことで、最終的にやる気の維持に繋がることがありまさす。
やる気が出ない原因を突き止める
やる気が出ない時は、その理由を探ってみましょう。日常業務に新鮮味がないから、やることが多すぎて整理できないから、単に疲れているからなど原因が分かれば対処もしやすくなるかもしれません。そして、「仕事に変化がないなら新しいアプローチを試してみる」「やることが多すぎるなら、紙に書いて整理し優先順位をつける」「単に疲れているなら休む」など、やる気を出す方法を見つけやすくなります。
思い切って休む
やることが多すぎたり、疲れていたりすると、何もしたくない気持ちになりがちです。そんな時は、思い切って何もしないで休むのも1つです。仕事がつらいなら休暇を取り、家事や育児がつらいなら、家事代行やシッターさんを1~2時間雇って、1人だけのリラックスタイムを作るのもお勧めです。リラックスする時間を持つことで、こころが落ち着き、また頑張ろうという気持ちに繋がるかもしれません。
適度な運動で体を動かす
疲れが溜まらない程度に運動することも良いでしょう。適度に体を動かすことで、アドレナリンが副腎から分泌され、血流が良くなります。アドレナリンが出ると肝臓に蓄えられた糖が血液中に排出され、脳に糖が届き脳を活性化させます。脳が活性化すると脳の働きが良くなり、やる気が出やすくなる効果があります。
誰かと対話する
人と話すと、モヤモヤした気持ちが晴れ、前向きな気持ちになれることがよくあります。
親しい友人と気軽に電話したり、尊敬する上司と話したり、ご自身が感じているストレスを誰かに聞いてもらったりすると、こころが晴れてやる気が出ることがあります。
モヤモヤした気持ちが溜まっていたり、何となくスッキリしなかったりする場合は、友人や同僚に話すのも良いでしょう。
自分自身へのご褒美を用意する
どうしてもやる気が起こらない時は、ご自身へのご褒美を用意しておくこともお勧めです。たとえば、「この仕事が終わったら1つお菓子を食べよう」や、「このプロジェクトが終わったら好きなものを食べに行こう」などです。ご自身に対するご褒美を用意しておくことで、やる気がでることに繋がりやすくなります。
新しいことに挑戦する
毎日の仕事が単調でやる気が出ない場合は、新しい方法を取り入れることもお勧めです。たとえば、仕事が習慣化しすぎている場合は、時間を計ってどれだけ効率よくできるかを工夫してみましょう。
日常生活で新しい工夫を取り入れることが難しい場合は、休日に新しいことを始めてみるのもお勧めです。習い事やお店の開拓などの新しいことに挑戦することで、日々の生活に変化が生まれ、物事に対する見方も変わりやる気が再び湧いてくるかもしれません。