物忘れが多い方へ
年齢を重ねると誰もが脳機能の低下を起こし「物忘れ」がでてきます。体験の一部を忘れたり、物を置き忘れたり、人の名前が思い出せないことは加齢でも見られます。しかし物忘れの他に、通い慣れている道で迷子になったり、料理や洗濯などの家事を上手くこなせなくなったりと、今までは出来ていたことが出来なくなると単なる加齢現症ではなく認知症の可能性を考えなくてはなりません。また物忘れというと認知症をイメージする方が多くいらっしゃると思いますが、認知症でなくとも注意力や集中力、意欲が落ちてきたり、脳の活動が鈍くなったりすると、ご自身は物忘れとして自覚したり、周囲から物忘れがあるように見えたりすることがあります。いずれにしても治療することで大幅な改善が見込まれる病気もあるため、物忘れが気になる方はまずは原因をはっきりさせるためにも当院までご相談ください。
このような症状はありませんか?
- 物の名前が思い出せなくなった
- 物を片付け忘れたり、置き忘れたりすることが
増えた - 何をするにもやる気がなくなった
- 物事を判断する力や理解力がなくなった
- 仕事でのミスが増えてきた
- やらなければならないタスクを
うっかりし忘れていた - 複雑な内容の会話に理解がついていかない
- 財布やクレジットカードなど、大切なものを
失くすことが増えた - 時間や場所の感覚がはっきりしなくなった
- 同じことを何度も言ったり
聞いたりするようになった - 慣れた場所でも迷子になってしまった
- 薬の飲み時間や用量などを正しく守れなくなった
- 趣味や楽しんでいたことに興味がなくなった
- 調理中のものを焦がしたり、
水を止め忘れたりすることが多くなった - 料理のレパートリーが激減し、同じ料理を
何度も作るようになった - 性格が変わったように感じる
- 財布を盗まれたと大騒ぎすることがある
- 映画やドラマなどのストーリーが
理解できなくなった
など
認知症とは
認知症は、それまで正常だった脳の機能が衰え、記憶や思考に影響が出る病気です。認知症になると、記憶力や判断力、時間や場所、人や物を認識する能力などが低下し、日常生活に支障をきたします。これまで普通にできていたことが徐々にできなくなり、いつも通っていた道で迷子になったり、何度も同じことを聞いたりするなどの症状が出てきます。「物忘れ」は単なる加齢による場合もあれば、認知症の初期段階の場合もあります。
認知症の種類
認知症にはさまざまな種類の認知症があります。代表的な4つの型を以下に示します。アルツハイマー型が認知症全体の6~7割、脳血管性認知症が約20割を占め、この2つの型で認知症全体の約9割を占めています。
アルツハイマー型認知症
脳内にアミロイドβ(ベータ)などの特殊なタンパク質が蓄積することで、神経細胞が壊れて数が減少し、神経が情報をうまく伝達できなくなり、機能異常が起こると考えられています。また、神経細胞が死滅することによって脳自体が萎縮し、脳が指令を与えていた身体機能も次第に衰えていきます。アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多くみられ、特に女性に多いとされています。
脳血管型認知症
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管の病気により、脳の血管が詰まったり、出血したりすることがあります。その結果、脳細胞に酸素が行き届かなくなり、脳の神経細胞が死滅することによって起こる認知症です。診断には脳血管の病気を起こした後から認知機能の低下が始まったことを確認する必要があります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、大脳皮質(思考などを司る部分)と脳幹(生命活動を司る部分)にレビー小体(神経細胞内で形成される特殊なタンパク質)が大量に蓄積するタイプの型です。レビー小体が多く蓄積すると、情報伝達がうまくいかなくなり、認知症に繋がります。幻視や動揺する認知機能障害、体の動きが悪くなるパーキンソニズム、睡眠時の行動異常などが特徴的です。
前頭側頭型認知症
頭の前部にある前頭葉と頭の側面にある側頭葉の萎縮によって引き起こされます。他の認知症と比べて若い方にも発症することがあります。行動や人格の変化、言語障害などが特徴的に出ることがあります。
認知症の手前?軽度認知障害とは
軽度認知障害(MCI)とは、認知機能(記憶、判断、推論、実行など)のどれか1つに問題があるものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態のことです。これは、認知症と正常な状態の間にあたるとされる段階です。MCIは治療せずに放置すると認知機能の低下が進み、5年以内に約50%が認知症へ進行するといわれています。しかし、初期段階で適切な治療を行えば、本格的な認知症の発症を防いだり遅らせたりできる場合もあるため、MCIと診断されたらできるだけ早く治療を受けることが大切です。
「物忘れ」は
「認知症」以外でもなる?
物忘れ=認知症、加齢の影響と思われるかもしれませんが、物忘れは認知症以外のこころの病気でも発症します。以下に物忘れが症状の1つとして見られる疾患をご紹介します。気になるものがありましたら当院までご相談ください。
適応障害(適応反応症)
適応障害とは、ストレスとなる出来事や生活の変化に反応して、感情や行動に変調をきたす病気です。ストレスや不安が増大すると、集中力が落ちたり注意力が散漫になったりします。その結果、日常的に物忘れが多くなります。特に、新しい情報を記憶する能力が一時的に低下することがあります。
うつ病
うつ病は、長期にわたって気分が落ち込み、物事への興味を失い、エネルギーが低下する病気です。うつ病になると、精神活動が停滞し思考が鈍くなったり、集中力が低下したりすることで物忘れが頻繁になることがあります。この症状は「(うつ病性)仮性認知症」とも呼ばれ、実際の記憶障害と似た症状が現れます。この場合には、物忘れは適切な治療を受ければ著明に改善します。
躁うつ病(双極性障害)
躁うつ病は躁状態とうつ状態が交互に繰り返し現れる病気です。躁状態では、過度な興奮やエネルギーの増大によって注意が散漫し、思考が混乱しやすくなるため、記憶を留めることが出来ず物忘れのように見えることがあります。一方、抑うつ状態では、うつ病と同様に思考が鈍くなり、集中力が低下することによって物忘れを生じます。適切な治療により躁状態、うつ状態が改善すれば物忘れも改善します。
解離性障害(転換性障害)
解離性障害は、ストレスやトラウマへの反応として、記憶、自我、意識に異変が起こる病気です。解離性障害では、解離性健忘と呼ばれる症状が起こることがあります。これは一般的な物忘れとは異なり、特定の出来事や期間に関する記憶を喪失することが特徴です。この物忘れは、通常の日常的な物忘れとは異なり、トラウマやストレスなどによる影響によって引き起こされます。
発達障害
発達障害には、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症、ASD)や注意欠陥・多動症(ADHD)などが含まれます。特に、注意欠陥・多動症の方は注意散漫になりやすく、物忘れが頻繁になる傾向があります。これは、情報が長期記憶に定着する前に注意が散漫になることが原因と考えられています。広汎性発達障害(自閉スペクトラム症、ASD)もまた、情報の処理と記憶に独特の課題を抱えていることがありますが、物忘れのパターンは個人によって大きく異なります。
当院では、18歳以上の広汎性発達障害(自閉症スペクトラム症、ASD)、注意欠陥・多動症の方に対し、より生活を送りやすくするためのアドバイスやお薬での治療を行っています。
認知症の行動・心理症状(BPSD)の
治療
認知症の患者さまには、中核的な認知・記憶症状に加え、精神・行動症状がみられることがあります。これらは認知症の行動・心理症状(BPSD)と呼ばれます。具体例としては、妄想、暴言、性的逸脱行動、抑うつ、徘徊、夜間せん妄などがあります。これらの治療法としては、診察で患者さまやご家族が困っていることを詳細に把握し、まず環境調整やリハビリテーションなどで症状の改善を図ります。同時に症状に応じてお薬を使った治療をおこないます。高齢者はお薬に対する副作用が敏感に出ることがあるため、安全に使えるお薬から少ない用量で治療を計画します。
若い人でも認知症になる?
認知症は高齢者に属する65歳以前に発症することがあり、これは若年性認知症と呼ばれます。若年性認知症ではアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症の順に多く、次いで前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、交通事故の後遺症によるもの、アルコール性によるものが多くみられます。若年性の場合は、他の病気の可能性も否定できないため、十分に検査する必要があります。より専門的な検査と迅速な治療が必要な場合には当院では提携する医療機関に患者さまをご紹介しています。