「リカバリー経験とワークエンゲージメント」
~良質な休み方と働きがい~
働きがいのために休み方が大切
前回は職業性ストレスモデルを用いて、仕事でのストレスがメンタルヘルスにどのように影響を与えるかについてお伝えしました。どんな職業でもストレスは多かれ少なかれ存在します。入社した時にはやる気があり、モチベーションを維持していた方も、働き続けることでストレスを感じて疲労がたまり、次第に意欲が湧かなくなってしまう方もいるのではないでしょうか。
蓄積した疲労やストレスを回復させて再び働きがいを感じるためにも、休み方はとても大切です。今回はこの「休み方」と「働きがい」について、「休み方」はリカバリー経験という尺度を、「働きがい」はワークエンゲージメントいう概念を用いてお伝えします。
働くために休むとは?
「働くために休む」というのは一見矛盾しているようにきこえるでしょう。しかしながら、どんな職業でも働き続けることにより徐々に疲労やストレスが溜まっていき、仕事から活力を得て生き生きとすることが難しくなります。これを防ぐために、必要なのが「リカバリー経験」という良質な休み方です。
働き続けることで心理的に消耗して、業務の困難を乗り越えられなくなったり、情緒的な感情が沸き起こらなくなります。心理学ではこの状態をバーンアウト(燃え尽き症候群)といいます。ある物事に高い意欲やモチベーションで熱心に取り組んでいた方のこころが消耗し、疲れ果てて熱意を突然なくしてしまうことです。
リカバリー経験によって、活力を取り戻し、その方の情緒的な消耗を回復させることができます。良質な休み方をすることで再び仕事で本来のパフォーマンスを発揮できるようになります。
リカバリー経験
ドイツのマンハイム大学の心理学者Sonnentag氏とアメリカのポートランド大学の心理学者Fritz氏によると、リカバリー経験(休み方)には、「心理的距離」「リラックス」「熟達」「コントロール」の4つの指標があるとしています。これらの4つの指標を大切にして休日を過ごすことで、身体的にも心理的にも回復し、再び活力を持って仕事に向き合えるとされています。特にリカバリー経験は、労働生産性を高めることや、後半でお伝えするワークエンゲージメントにポジティブな影響を与えるとされています。休日の過ごし方について「心理的距離」「リラックス」「熟達」「コントロール」の4つの指標に留意して過ごすと良いでしょう。具体的に見ていきましょう。
心理的距離
職場や仕事から物理的な距離が取れている状態でかつ業務内容から心理的にも距離が取れている状態です。職場からできるだけ離れた場所で過ごして、仕事のことを忘れるくらい業務のことを考えないようにしましょう。
リラックス
身体的活動や、心理的な活動を自ら少なくして、心身ともにリラックスしている状態です。特に仕事で肉体的な疲労がある方は、休みの日には身体的活動を抑えて、力を抜き、体もこころも休めるようにしましょう。
熟達
休んでいる間に自己啓発を行うことで、更なる技能や考え方を身につけることです。自分の視野を広げる活動に時間を割くことが良いとされています。
コントロール
休日に何をどのようにいつどこで行うか、自分で自由に決定していける程度のことです。休みの日はできるだけ主体性をもって自由に過ごし方を決めていきましょう。
働きがいで生産性を高める
前半では良質な休み方について「リカバリー経験」という概念を用いてお伝えしました。良質な休み方は、仕事でのストレスを緩和し、意欲やモチベーションを向上させ、再び「働きがい」を取り戻すことができます。ここからはこの「働きがい」について「ワークエンゲージメント」という概念について説明します。少子高齢化で人材不足が起こると、多くの企業では業績に影響が出るとされます。この人材不足のなかで、いかに個々の生産性を向上させるかが課題となり、ワークエンゲージメントが注目されました。人材不足は業務の不均衡を生んだり、会社への帰属意識を弱めたりします。これにより従業員の働きがいや意欲の低下につながり業務のパフォーマンスの低下が起こります。また、個々の負担が増えてストレスや疲労感を高め、メンタルヘルスに悪影響を与える可能性が高まります。この悪循環を断ち切り、個々の従業員の働きがいである「ワークエンゲージメント」を向上させることが、会社の業績と従業員の双方に好循環をもたらすとされています。
ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントという尺度は、オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授らにより2002年に確立されたものです。その後、今日まで様々な研究者による学術研究も蓄積されている概念です。シャウフェリ教授によると、ワークエンゲージメントは、仕事に対してポジティブで充実した感情などの心理状態として、「活力」「熱意」「没頭」の3つがそろった状態として定義されます。さらに、ワークエンゲージメントは個人と仕事全般の関係性を示す心理状態であり、一時的なものではなく、持続的なものであることとされています。これら「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素をそれぞれ見ていきましょう。
「活力」
仕事をするなかで生まれてくるエネルギーで、仕事から活力を得ていきいきとしていることです。
「熱意」
仕事をするなかで感じる熱意で、仕事に誇りとやりがいを感じていることです。
「没頭」
仕事をしているとつい夢中になってしまうなど、仕事に熱心に取り組んでいることです。
リカバリー経験とワークエンゲージメント
仕事と休暇のメリハリをつけて、休む時はしっかりと休むことで、仕事では良質なパフォーマンスを発揮することができます。リカバリー経験を用いてワークエンゲージメントを引き出し、この好循環を産み出していくことができるとされています。働く方は休み方について改めて考えてみることが有効であり、会社は従業員が積極的に良い休み方であるリカバリー経験ができるような環境を整えることが、働く方のワークエンゲージメントや労働生産性を高めることとなります。一見矛盾しているようですが、仕事を精力的に続けるためには、しっかりと休むことが大切です。特に日々の業務でストレスや疲労が蓄積して、意欲やモチベーションが下がってきた方はまずは、一歩立ち止まってこのリカバリー経験を参考に良質な休み方を取り入れることで、再び仕事に対する活力が生まれてくることが期待できます。
当院では働く方のメンタルヘルスにも力を入れています。職場でのストレスでお悩みの方はお気軽にご相談ください。